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あらかじめ予約してあったらしいホテルの25階の部屋に入ると、椅子に座る間もなく菜摘は静かに話し始めた。
「ひろは、私に嘘をついたよね!」
僕には、何の事かさっぱりわからなかった。
「ひろが紹介してくれた大樹さんは、他に婚約者がいるみたい。
私は、そのことを知らずに大樹さんに誘われるがままラブホテルに行って、大樹さんに抱かれたの…」
確かに菜摘に親友の大樹を紹介したけれど、僕も大樹が婚約していたことは知らなくてショックが大きかった。
僕は誤解を解くために、このことを正直に話そうとすると、菜摘は思いもよらない話をしてきた。
「ひろから大樹さんを紹介された時、正直私はショックだった。
だって、私はひろのことが好きだから…」
菜摘からの言葉に、僕は返す言葉を失った。
「菜摘、ごめん!」
僕は、菜摘に心から謝った。
菜摘は、僕に抱きついて涙を流して泣き始めた。
僕は、菜摘の体をそっと抱きしめて、ふと菜摘の後ろの窓を見ると、僕はその光景をどこかで見たような感じがした。
そう、その窓から見える東京の夜景は、僕が夢で見た光景だった。
僕がそのことに気が付いた瞬間、僕は胸に激痛が走った。
恐る恐る顔を下に向けると、僕の左胸に刃物が刺さっていた。
菜摘は後ずさりして、涙を流しながら僕に話しかけてきた。
「ひろ、愛してる!」
僕は、菜摘の顔がぼやけていって、とうとう霧がかかったように目の前が真っ白くなった。
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