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彼女は果てる時に美しかった。
あの哀しそうな瞳がどうしようもない感情に歪んで、アッと吐息を漏らす。
それから数日経った月曜の晩に、私は例のコンビニに行くことにした。
その日のバイトは初めて見る中年の男で、「24番のタバコをくれ」というと、どうも私を未成年と怪しんだらしい。私が運転免許を見せると、やっと納得してタバコを売ってくれた。
コンビニの外で一服した。
口の中に苦い味が広がる。
肺が妙に白く美しい煙にびたりと震え、満足して、口から漏れて行く。
結局、私の人生とは何なのか。
その答えはいつも胸の中にある。
すなわち追いかけるということだ。
だが、そんな人生に果たして意味があるのだろうか。誰かの影を淡々と飽くもなく追いかける日々に価値があるか。
突発的に怖くなった。
肺の中の煙が黒くなる。
幾千の虫が身体の中を蠢いている。
意味はない。
私の人生に意味はない。
向こうの塀で鈴虫が泣いている。
その声が憎かった。
この世には私などより遥かに美しく生き、そして美しく死ぬ人間がいる。
彼女もそうだった。
彼女を連れ帰った晩、彼女の死に果てる時のあのアッという吐息は今も耳に残っている。あの美しい表情。死のどうしようもない感情に淘汰される芸術。
では私の人生とは何だ。
気がつけば私は何十分もの間、その電柱の影でタバコを吸い続けていたらしい。足元にその吸い殻が積み重なっていた。
そうだ。
私の人生は追いかけることだ。
彼女の後を追いかければいい。
あの彼女の死体の上に私の死体を重ねよう。丁度、夜になると人と影の区別がなくなってしまうかのように。
私は最後のタバコを吸い終わった。
もうあのコンビニに彼女はいなかった。
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