タバコと煙の蔭

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自宅は色のないアパートだ。色がないとはいったが、その階段手摺は赤く錆びついていて、白かったはずの壁は黒ずんでいるのだから色はある。 要は面白味のないアパートだと言いたかった。 とはいえ学生身分の私にとっては手頃なもので、私には親と呼べるものがいないのだから、その家賃も奨学金でなんとか遣り過ごせるくらいに丁度良い。 さて私のアパートを出て、石塀に囲まれ、焦げたアスファルトを手持ち無沙汰に歩いて電柱を越したところに例のコンビニがある。夜空にとっては迷惑なことにコンビニはいつも明るくて、星の明かりを霞ませるくらいだ。 毎週、火曜と水曜と木曜それから日曜に限って私はそのコンビニに出向く。 家が近いというのは便利だ。 的の監視に丁度良い。 こう書くと的とは何かと質問を受けそうだが、そのままだ。即ちターゲットだ。私はある女性をストーキングしている。 いわゆるストーカーというやつだ。 今日も彼女はレジのところに椅子を持ってきて座っている。私が自動ドアをくぐると彼女はふと顔を上げてこちらに作りものの愛想笑いを浮かべる。 私はそれで白い蛍光灯と軽いBGMの中、顔を隠すように俯き、冷蔵のガラス戸を開け、ビールを二瓶だけカゴに入れてレジに持っていく。 「いつものやつですか?」 プラスチックのカゴの向こうから彼女が面倒腐そうな目でこっちを見て尋ねる。私が頷くと、彼女は奥の色々のタバコケースから24番のタバコを抜いてバーコードを通した。
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