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布団の中に逃げ込んでも全身が震える。
暗い部屋の中は美と恐怖に踊る。
煤けた壁が歪んで蠢いているように見えた。カーテンの隙間から差し込む薄い月光の中で目に見えぬ獣が何十匹もにたにたと笑っている気がした。窓が独りでにがたがたと揺れている気がした。
美しい。美しい。美しい。
身体の震えは止めようとすればするほど戦慄する。息は荒く、瞳は回り狂う。
その晩、私は眠ることが出来なかった。
翌日からの一週間、私は件のコンビニに出向くことが出来なかった。夏休暇ということで学校も休講な為、食事もまともに摂っておらず、八日目の真夜中、ついに私は何か食物を求めて部屋を出た。
夕暮れ時に雨が降ったらしい。私の足はゆらゆらと湿ったアスファルトを踏みつけ、気がつけば電柱を一つ超えてあのコンビニの前に立っていた。
自動ドアを通って、眩しい店内の蛍光灯に目を細めると、レジのところに彼女がいつものごとく座っていた。
そうか今日は木曜だったか。
私は心の中で納得した。
彼女の目は明らかに私を訝しんでいた。
しかしながら私は平生を装う必要はなかった。それ以上に空腹でしかたなく、彼女の犯した芸術の事を意識する余裕もなかったからだ。
プラスチック製の安物のカゴに出来るだけの食糧を詰め込んで、それから思い出したかのようにビールを二瓶入れてレジに持って行った。
彼女の目の下には暗いくまができていた。ただその為に一層彼女の美しさは引き立てられている。
彼女はすぐに商品を取って、バーコードを読み込み始めた。
「あの......」
私は違和感を覚えてしまった。
「24番のタバコ......お願いします」
彼女はしばらく俯いたまま、カゴから商品を取る手を止めた。
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