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2. 九月の夜
その日、俺は大きな災難にあった。正確に言ったら発端は自分が引き起こしたのだけど。
俺はホストだった。別にホストがやりたかったとか女の子をだまくらかすのが得意なわけじゃないし、むしろ苦手だけれど、お金が欲しくてクラブで働いていた。
そこのクラブは明らかにケタ違いな額をとっていて、なんでそんな大金をとれるのかずっと怪しんでいたけれど、新入りだった俺には分からなかったし、知らない方が幸せだと思っていた。
台風が近づいてきていて、店内でもその話でもちきりだった九月の夜。店で1番の常連客である女性客がやって来た。どっかの社長の奥さんがお忍びで来ているらしかったけど、相手をするのはいつもNo.1のホストだったから俺とは無縁だと思っていた。
けれど、その日は何の気まぐれか俺を指名してきた。
びっくりして女性に恐る恐る近づき、カチカチの表情筋を無理やり動かして笑い、とにかく「お綺麗ですね」とか「素敵なドレスですね」とかお世辞を並べまくった。本当は濃すぎる化粧と派手すぎるドレスにうんざりしていたけれど。
向こうは「たまには若い子と遊びたくて」とか色々言っていた気がするけど、緊張しすぎていてほとんど聞いていなかった。
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