3. 奇妙な出会い

1/9

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ

3. 奇妙な出会い

そんな台詞をいう人、現実にいるんだ。 相変わらず雨と風が身体を打ち付けていたけど、そんな事を忘れて俺は呆然とその人のことを見つめていた。ヒーローみたいな台詞を言い放ったくせに、爽やかな笑顔なんてこれっぽっちも浮かべず、表情は全く読み取れない。 でも、その瞳は完全に俺を捉えていて、その闇の深さにぞくりと背中が震えた。 「……あんた、誰?」 勇気を振り絞って怪しげな男に話しかける。すると突然腕をグイッと掴まれた。 「えっ……!なに…??」 「濡れるだろ」 どうやら雨に濡れるから傘に入れてくれたらしい。身の危険を感じたことを少し申し訳なく思った。 「……どうも」 「ここじゃ雨も風もひどいから、どっか入るぞ」 「えっ」 「近くにファミレスがあるから、そこで」 「は?」 男は俺の腕をさっきよりも強い力で掴むと、早足で歩き出した。 ビニール傘は男2人が入るには小さく、男の方はほとんど濡れていた。でも引っ張られながら付いて行く俺はあまり濡れなかった。傘が後ろの方に傾けられていたからだ。それに気付いてかすかに胸がきゅっ、と痛んだ気がした。頭が色々と追いつかなかったけれど、腕を振りほどく気にはならない。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加