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3. 奇妙な出会い
そんな台詞をいう人、現実にいるんだ。
相変わらず雨と風が身体を打ち付けていたけど、そんな事を忘れて俺は呆然とその人のことを見つめていた。ヒーローみたいな台詞を言い放ったくせに、爽やかな笑顔なんてこれっぽっちも浮かべず、表情は全く読み取れない。
でも、その瞳は完全に俺を捉えていて、その闇の深さにぞくりと背中が震えた。
「……あんた、誰?」
勇気を振り絞って怪しげな男に話しかける。すると突然腕をグイッと掴まれた。
「えっ……!なに…??」
「濡れるだろ」
どうやら雨に濡れるから傘に入れてくれたらしい。身の危険を感じたことを少し申し訳なく思った。
「……どうも」
「ここじゃ雨も風もひどいから、どっか入るぞ」
「えっ」
「近くにファミレスがあるから、そこで」
「は?」
男は俺の腕をさっきよりも強い力で掴むと、早足で歩き出した。
ビニール傘は男2人が入るには小さく、男の方はほとんど濡れていた。でも引っ張られながら付いて行く俺はあまり濡れなかった。傘が後ろの方に傾けられていたからだ。それに気付いてかすかに胸がきゅっ、と痛んだ気がした。頭が色々と追いつかなかったけれど、腕を振りほどく気にはならない。
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