私が左手を気にする理由

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「あっ、ごめん」 「いや、俺の方こそ」 「ううん、私が急に動かしたせいだし。ごめんね、線が変になったりしなかった?」 もう何度目だろう、このやりとり。またぶつかってしまった。 苦手な地質断面図を描いているときはつい集中して周りに注意が向かなくなるからいけない。普段は横山くんに手が当たらないようにきちんと気をつけているのに。 高校二年の選択科目の地学の授業は人数が少ないこともあり、物理地学教室に移動して隣のクラスのメンバーと授業を受ける。 教室の小さな机でなく、いかにも理科系の教室といった大きな机で受ける授業を私はとても気に入っているのだけど、ここでは一点だけ注意しないといけないことがある。 それが、隣に座る左利きの横山くんだ。 先生の方針でクラス関係なくあいうえ順で座る決まりなので、和田という名前の私はいちばん後ろ、つまり左側のいちばん後ろの窓際の席だった。そして隣のクラスの横山くんが私の右横に座る。 去年もクラスは違ったし、それまで話したこともなかったので、彼のことは名前くらいしか知らなかった。背の高いクールな男子、そんな印象だけ。だから、左利きだと知ったのは隣になってから。 左にいる私は右利きで、右にいる彼は左利き。その結果、手を動かすタイミングで、たまに二人の利き手の腕がぶつかってしまうのだ。 いや、正確には「ぶつかる」のでなく、私が「ぶつける」が正しいのだけど。注意してるつもりだけど、今日みたいにたまに不注意でぶつけてしまうのだ。
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