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「ん、問題ないよ。和田さんは?」
「うん、私も平気。ありがとう。横山くんはもうできそう?」
「あと少しかな」
「さすが早いね」
「和田さん、苦手なんだっけ? 大丈夫?」
「大丈夫……、たぶん」
軽い会話を終えると、彼はノートに視線を戻した。
もしかするとこれまでにも何度か腕をぶつけた私に腹を立てているかもしれないけど、彼はあまり表情を変えないこともあり、よくわからない。穏やかな声で会話してくれるからおそらく大丈夫だとは思うけど、本当はどうなのだろうと毎回少しだけ心配になっていた。
自分の作業に戻る前にこっそりと横目で彼のほうを見ると、やっぱり線がズレてしまっていたのか、消しゴムをかけていた。また優秀な横山くんの邪魔をしてしまったのかと申し訳ない気持ちになる。
でもこれ以上彼の手を止めるのも悪いので、もう何も言えない。ノートに目を向けると、書きかけの地質断面図がある。これが難しいせいで、と小さくため息を吐いた。
そのとき彼が一瞬こちらを見た気がしたので、顔を上げると、横山くんは前を見て「先生」と声を上げた。
「どうしましたか、横山くん」
「和田さんと席替わっても良いですか? 俺が左利きなので線引いてたら腕がぶつかるんです」
「あぁ、そうですか。隣同士が替わるだけならいいですよ」
「ありがとうございます」
私は声も出せずに横山くんを見つめていた。だけど彼はこちらを向かず荷物を軽くまとめている。
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