『唸り壷』

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 忌々しい壺。何の益も無く、此れを作るわけも無く。当然の事ながら、それは欲する物の為。一族の繁栄と集団内での地位確保、権力維持に敵の排除。業そのものを得る為の業の塊が唸り壺。秘伝とは言え、集落の大家では、各々の蔵で祀り上げていた。  廃村の、ほとんど朽ちた蔵に眠る、この唸り壺は、その命を再び閉じようとしている。産声を発する事もなく、只、羊水の中で溺れた喘ぎの息を吐きながら。せめての餞が、頬を伝い封に沁みる。 -完-
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