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滝川ホールディンググループが所有するビルは地上を見下ろせるほどに高い。
ガラス張りのエレベーターからはジオラマのような街並みが見え、頭上には広大な空が地平線の果てまで広がっている。
ガラスの壁を介しているせいか、まるで宙に浮いているような錯覚を覚え、悠斗がいかに遠い存在なのかを思い知らされた。
普段、総務部でデスクワークをしている愛未が高層階に出向くことはない。
ビルの高層階には主に理事長室や社長室といった、役職に就いている人間だけに与えられる専用の執務室が入っており、一介の社員が安易に足を踏み入れていい場所ではないからだ。
今回のように悠斗からの呼び出しがなければ、退職するまで訪れる機会などなかったのではないだろうか。
「皆藤君、ちょっと来なさい」
総務部に戻ると、まっ先に冷や汗を垂らした部長に呼び止められた。
同僚たちの目を気にしてか、空いている応接室に連れ込まれた愛未は冷静さを欠いた目で「し、失礼はなかったかね…!?」と、切羽詰まった様子で迫られた。
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