転生トラックの仕事をしているヤツがいる

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「よし、うまくいった! あぁ、こんなところで能力見せるなっつーの!」  東一が胸に詰まった息を吐き出しながら、空の魔法陣を見上げると、跳ね飛ばした男はそこに吸い込まれていく最中であった。   男の身体は重力の法則に従わず、跳ね飛ばされて大の字になった姿のまま魔法陣に近づくと、徐々に紫の細やかな光の粒となり、沸き立つ泡のようにして身体から離れては昇っていく。そうしているうちに体全体が紫光になって、その全てが魔法陣に吸い込まれていった。 「いい『勇者』になれよ……」  東一は重力で押し込められた座席の隅から、そんな男を見送った。  その眼は人を車で跳ね飛ばした人間にはまずもって見られない、優しい親心のようなものがあるばかりだ。  と、そんな感慨深い東一の身体が震えた。 「東一様……突然すぎます」  真後ろ、コンテナから伝わる夕霞の怨嗟の声だ。  東一ははっとして、急いで降りると、背面にあるトラックのコンテナを開けた。 「す、すまん!」  いきなりドリフトしたものだから後ろにいる夕霞はたまったものではなかったのだろう。その証拠に、扉からはゴロンゴロンと勢いで火の消えた大ぶりな蝋燭が転がり落ちてくるし、そして壁で強かにぶつけたのだろう、顔面と綺麗な黒髪を真っ赤にして恨みがましい目で見てくるではないか。 「大丈夫か!?」 「守護陣を敷いておりましたので、なんとか……」 「回避しようとしてきたから、つい本気でしちまった。あ、でも『勇者』はちゃんと異世界に送ることができたぞ」 「それはようございました。私めも光栄でごさいます」  常人ならばすぐさま入院になるだろう有様であっても、懐から取り出した手ぬぐいで血を拭きとるだけでいつも通りのおっとりとした笑顔を浮かべる夕霞に、東一は心底申し訳ない顔をした。 「オレも勇者だってのになぁ」 「理の問題でございます。……お詫びと申されるのなら」  夕霞はそうして年頃らしい笑みを作ったが、それも東一のポケットに入っていた携帯が鳴りだすまでの少しだであった。
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