転生トラックの仕事をしているヤツがいる

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「どうぞ、ご請願主でございましょう」  東一が電話を耳に当てると夕霞の言った通りであった。 「新元世界エルドレッド……こちら並行八次元世界地球の高杉東一だ。勇者様、確かにそっちに送ったぜ」 「ありがとうございます、今ですな。魔力反応があったと大司教より報告がありまして! すぐにお迎えの準備をいたします。これで魔王に対抗できますぞぉ」  東一は電話を耳と肩で挟みつつ、トラックのバイザーにしまっておいた書類を取り出し、中身を確認した。  そこには先程跳ね飛ばした男の写真、経歴、特技などが羅列されており、さらには好みの女の子という項目まで書かれているのを確認しながら、東一は赤ペンでチェックを入れていく。 「ちゃんと可愛い女の子にお迎えに行かせろよ。勇者様、こっちの世界ではブラック企業勤めしてたんだから」 「ぶらっくきぎょー?」 「説明が難しいな。まあ折角の勇者がこんな世界いやだーって言って帰ろうとされても困るだろ。勇者の希望は胸のでかい清楚系らしい。ちゃんとさも運命であるかのように振るうんだぞ」 「もちろんでございます!! あ、転移門が開いたとの連絡が入りました。では失礼しますぞ」 「ああ、それじゃ世界が滅びから救われるといいな」  いそいそとした感じの老人の声がブツンと切れるのを確認すると同時に、東一はふうとため息をついた。 「彼の御仁は無事に異世界転生なされましたようですね」  その様子を確認して、夕霞はそっと声をかけた。  先程の血糊は拭い去ってはいるが、まだ少し赤く腫れた痕が見える夕霞に、東一はそっと手を当てて祈ると淡い光が東一の手からあふれ出たかと思うと、夕霞の怪我は消えてなくなっていた。 「ああ、これでまた一つ世界が救われるだろうさ」  うーん、と伸びをしながら東一は自分のトラック。人を異世界へ転生させるトラックを見つめ直した。  そこで東一はあることに気が付いた。  トラックの影が、ない。  空は灰色のまま、明滅していたはずの信号灯はまだ青のまま、常灯している。 「夕霞、まだ時空停止しているのか?」  そこまで言って、東一は夕霞に突き飛ばした。  同時に、先程まで夕霞、そして東一の間であった空間が激しく振動した後、爆発が起こった。 「東一様!」  叫ぶ夕霞の視線を追って、東一が振り向いた先は、赤になったままの信号機。  その真上に立つ、黒い影であった。
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