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僕は、スープを飲み干す。何故か、血のような味がした。
次に、サラダが出てきた。こじんまりとした、野菜サラダだった。僕はそれを口にする。何故か髪の毛のような味がした。
次に、ハンバーグ・ステーキとポテトが出てきた。そして、ようやく白い白米が置かれる。僕は次々にそれを口にしていく。ハンバーグは食べた事の無い味だったが、どこか懐かしい感じがした。ポテトを口にする。それも不思議な味だった。白米を口にすると、何故か軟骨やレバーのような味がした。
「なんだ? これは…………」
何故だか、不味くはない。
気が付けば、店の中には、他にも客が何名かいた。老婆に、大学生風の若者、それぞれだった。みな、暗い顔をしていた。噂に聞くように、ここには幽霊でも出るのだろうか? 生きている人間は自分だけなのだろうか? そんな不安に襲われるが、定食を食べている、幸福感は止まなかった。
僕はお腹がいっぱいになり、ポテトを一つだけ残した。
全て不思議な味がした。美味くも無いが、不味くも無い。
僕はお会計をしようと、財布を取り出す。
すると、血がべっとりと財布に付いていた。
「あの……、店主さん…………」
のっぺらぼうのような顔の店主は、ここで初めて表情を見せた。
「貴方、実はもう生きていない人なんですよ」
店主は、にっこりと笑った。
「はあ?」
「ほら、交通事故で。谷の底に…………」
「今、食べて貰ったのは、貴方御自身の身体ですよ。食べやすいように、ハンバーグ・ステーキに見えるようにしました」
「そうなんですか……」
「貴方、御自身の死を早く分かりなさい」
そう言われて、安田はぼうっとした顔で、そしてすぐに安らかな顔になっていった。
…………数日後、安田ヒトシの死体は、指だけが見つかった。
指の一本をポテトに見せて、あの店の店主は安田に食べさせたのだろう。
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