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「フーッ、終わった」
予定通りティッシュを配り終えた左近は、空の段ボール箱を持ち帰路に着く。
時刻は午後三時。
「今夜は何にしよう……」
帰ったら夕食作りだ。昨夜のメインは肉だったしなぁと思い、そう言えば、とキツネ寿司と鯛のお裾分けを思い出す。
「だったら鯛の刺身だな。それと鯛しんじょ、鯛のアラ汁もいいな」
「小鉢は」と考え、ほうれん草の胡麻和えと秋茄子の揚げ浸し、それに、しんじょで使った山芋の残りを明太子和えにして……とメニューを組み立てる。
「うーん、あとデザートは……おっ、サツマ芋が残っていたから大学芋だ。よし、決定!」
追加する材料を思い浮かべながら、まず八百屋に足を向ける。
「あら、左近ちゃん、もう配り終えたの?」
八百桃の女主人、モモエが元気に声を掛けてきた。
「楽勝っすよ。ほうれん草と山芋と茄子、下さい」
モモエは人外だ。桃の木の精だったが、数十年前に土地開発という名の元、樹齢三百年を迎える一日前に切り倒され、気付けばこの地に辿り着いていたと言う。
穴は奇々怪界な世界以外にも、同じ人間界のこことは違う場所にも通じているらしい、とモモエの言葉で左近は知った。
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