01) 狐の初恋

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『まるでこの地に引き寄せられるようだったわ』と当時のことを思い出し『磁石? そんな感じ』とモモエは明るく笑った。 『でもまあ、何だかんだあったけど、ここでの暮らしは楽しいわ。三十七歳、未亡人、子供無し、天涯孤独と設定してあるからモテるし、店も大繁盛』 自分の意思で来たわけでもないのに、運命に(あらが)わず、前向きに淡々と生きるモモエが左近の目にはとてもカッコ良く見えた。 おまけに彼女の外観はスレンダーな美人だ。モテるのも当然だった。 ーーところで、モモエの言う“設定”とは何かだが、それは人間が言うところの個人情報のことだ。 人ならざるモノたちはそれを“人間設定”と言い、人の世で人型として生きる上で、とても重要な役割を担っていた。 その人間設定は、月ヶ丘市民認証手続き時に使われる。手続きの手順は以下の通りだ。 【人ならざるモノが、月ヶ丘市に移住時、人型であった場合】 (1)どんな人間を装うか(此れを『人間設定』と言う)を言霊にする (2)(1)を月ヶ丘市役所人外課に提出する (3)(2)を受理されたモノのみ、人外課が人間との調整を行う (4)(3)が整ったモノに住居と仕事が与えられる (5)以上。もし、不正等見つかった場合、穴に引き戻される ちなみに、人外課の周知は人ならざるモノだけだった。
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