01) 狐の初恋

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元々この地に住む人ならざるモノも、例外なく同様の申請が必須となった。だが、特典はある。先の(4)が割愛できるのだ。 左近は年齢十八歳。身内は兄(兄神使のこと)と叔母(華桜のこと)と設定して、(4)の“住む所”と“働き口”は決定済みだと人外課に申請して受理された。 だが、兄神使は人型を希望しなかった。一連の流れが面倒だからと言うが……まっ、仮に申請したとしても必ず人型になれるとは限らない。 ーーなどと左近がごちゃごちゃと思い返していると、「山芋、この大きさでいい?」とモモエが訊ねた。 「あっ、えっと、しんじょと明太子和えだから、それでいいっす」 「驚いた! 左近ちゃんってしんじょも作れるんだ。凄いねぇ、エライねぇ」 注文の品をエコバッグに入れながらモモエが褒め称える。 「いやぁ、それほどでも……あるかなぁ」 「何なのそれ、謙遜しなさいよ」 ケラケラ笑うモモエに左近もテヘヘと笑う。 モモエはとても褒め上手だ。 おまけにその微笑みは慈愛に満ちていて優しく温かだった。 人間が言うところの『母の温もり』とはこういうモノだろうか? 親を知らない左近はモモエの笑みを見るたびに思った。 こんな風に、人ならざるモノの中には、自分たちと全く異質の人間に、憧憬(しょうけい)に近い思いを馳せるモノも多くいた。
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