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「行くっす」
「何だかなぁ……無理矢理誘われたんだけど……」
どうやら元治は乗り気じゃないようだ。分かる気もするが……。
「――クリスマスの奇跡がナンチャラカンチャラだってな? 本当か?」
ナンチャラカンチャラって何だ? クリスマスの奇跡? 左近は意味不明の言葉に心の中で首を傾げる。
「奇跡ってのが本当にあるんなら……色々起こって欲しいけどな……」
元治が呟くように言う。
きっと、鈴さんのことや紗希子さんのことだろうと左近は思い、複雑な胸の内を抱えながらも淡々と仕事を続ける元治が痛ましく見え、左近は元治から目を逸らすように通りの方に目を向ける。
商店街に設置してあるスピーカーから、賑やかなクリスマスソングがひっきりなしに流れている。それに合わせように行き交う人たちの顔も楽しそうだ。
でも、誰も彼もがクリスマスに浮かれているわけじゃないだろう。
元治さんのように、心を痛めながらも藁をも掴む思いで奇跡を願っている人もいる。
「じゃあ、今晩、またな。まいど!」
注文の品を受け取り、会計を済ますと左近は駆け出した。
「モモエさん! 奇跡って何すか?」
そして、八百桃に着くとハァハァと息を乱したまま訊ねる。
「あーら、左近ちゃん、いらっしゃい。何、どうしたの? ん? 奇跡……」
ああ、とモモエは思い至ったのか、ニッと笑う。
「聖夜の奇跡のことね」
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