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やっぱり、元治に奇跡と言ったのはモモエだった。
「聖夜の奇跡って何すか? 湯呑みにそんな力があるっすか! もし嘘なら俺、怒るっすよ」
「えっ、どうしたの? そんな怖い顔をして」
モモエは戸惑う。いつも太平楽な左近のこんな顔を見るのは初めてだったからだ。
「嘘だったら、いくらモモエさんでも、俺、許さないっす」
元治の切ない顔が左近の胸をグッと締め付ける。
「――左近ちゃん」
左近の気持ちがモモエにも分かったのだろう。慈愛に満ちたモモエの瞳が弧を描く。
「成長したね」
温かな手が左近の髪をクシャッと撫でる。
「心配しなくても大丈夫。聖夜の奇跡はきっと起こるわ」
モモエの口調には確信めいた色があった。
「本当っすね!」
念を押すように左近が言うとモモエがそれに答えるようにフワリと笑う。
フーッと息を吐き出し、左近は安心したように頭を下げる。
「モモエさん、ごめんっす。興奮したっす」
「いいのいいの、気にしていないから、謝らなくていいよ」
カラカラ笑いながら「で、今日は?」と注文を訊く。
「牛丼っす!」
「あら、いいわね。私は親子丼にしようかしら? 確かモモ肉があったはず」
「モモエさんって、いつも一人でご飯、食べるっすか」
「……ん?」モモエが怪訝な顔をする。
「何を今更、一人暮らしだって知ってるでしょう?」
「あっ、ごめんっす。ただ、ちょっと……」
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