04) 壊れない愛恋

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「華桜ちゃん言ってなかった? 左近ちゃんたちも元治さんの車で行くんのよ。あのワゴン車八人乗りだから、楽勝よ」 「えっ! そうだったんすか? そんなの全然聞いてなかったっす」 いつも肝心なことを言い忘れるんだから、と左近は口を尖らせる。 「夕飯を食べたら、十八時十五分に肉屋のゲンさん前に集合だからね」 「はーい」と手を挙げ、明るく返事をする花梨にモモエが、「花梨ちゃんたちはお迎えに行くからお家で待ってて」と言う。 そして、付け加えるように「夜道は危ないからね」とウインクする。 「ありがとうございます」 花梨はその申し出を素直に受ける。自分のためではなく祖母と祖父のために。 そんな花梨を横目で見ながら、左近はモモエの言葉を思い出す。 変わった……花梨が俺を変えた……? 「モモエさんはどんな湯呑みを作るんですか?」 「私? 桃の花を散りばめた湯呑みにしようと思っているの」 「わぁ、素敵ですね」 コロコロと無邪気に笑う花梨を見ながら、左近もようやく自分の気持ちに気付く。 桜色の頬も、身振り手振りで一生懸命話す姿も、全てが可愛く愛おしく思える――と同時に、花梨の事を考えると胸の奥がギュッと締め付けられる。 そうか、これが恋。恋の痛みというものかぁ。痛いのに幸せを感じる自分が笑え、自然に上がる頬を掌で押さえていると、「左近ちゃんはどんな湯呑みを作るの?」と花梨が声を掛ける。 「あっ、えっ、俺っすか? 何にも考えていなかったっす」 そこで、そうだったと気付く。 形を整えるだけじゃなくて模様を入れたりするんだった、と左近は紗希子から貰ったチラシの内容を思い出す。 「じゃあ、左近ちゃん、私とお揃いにしない? どうせ交換するんだから」 花梨が無邪気に言う。
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