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「あら、いいわね。夫婦湯呑みね」
ギョッと左近はモモエを見る。
「それを言うならカップル湯呑みだよ。だって、左近ちゃんと私、結婚してないもん」
カップルの言葉は無自覚だろう。でも、花梨の言葉に左近の心は飛び跳ねる。
「きっと、素敵な湯呑みが出来上がるわね」
モモエがクスクス笑う横で左近は茹でタコになる。
***
「シートベルトは締めたな。行くぞ」
元治の声はちょっと疲れていた。
クリスマスの前日で、大忙しだったからだ。
「お疲れさん、運転気を付けてよ」
助手席のモモエも大欠伸をする。
「すまんな、疲れているのに運転させて」
千蔵が後ろの席から声を掛ける。
「お気遣いなく。今日は誘ってもらって、こちらこそです」
元治は鈴の湯呑みを作るらしい。
見送る鈴が嬉しそうに言っていた。
若干アンニュイな雰囲気だが、それでも車内は賑やかで、絶え間なくお喋りは続き、笑顔が溢れていた。
「あら、もうすぐね」
下見してきた、と言っていたモモエが見覚えのある景色に声を上げる。と同時にナビから女性の声が聞こえた。
〈間も無く目的地です。音声案内を終了します〉
「ほら、あれ、電柱から三つ目の……」
モモエがフロントガラスに向かって指を差したところで、それは起こった。
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