01) 狐の初恋

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人ならざるモノは人間の思考までは読めないまでも、人間の内なる魂の色を視ることができた。人が隠そうとする秘めたる汚い部分もその色から伺えた。 だが、人ならざるモノから言えば、人間の“悪”など可愛いものだった。いや、それさえも良しにつけ悪しきにつけ神秘的で魅力的に見えた。 それ故かもしれない。憧れから恋心を抱く人ならざるモノが後を絶たないのは……。 だが、人間と人外の恋愛は非常に難しく、なかなか成就しないのが常だった。それは(ひとえ)に、人外の存在を認めようとしない、人間の頑な心にあると人ならざるモノはいう。 (まれ)にだが、人外を人外とする奇特な人間もいるにはいたが……。 そんな人でさえ、苦難が生じる人外との恋には二の足を踏んだ。例え仮に一歩踏み出せたとしても、志し半ばで諦める者がほとんどだった。 故に、万が一にも人間と人外が結ばれ添い遂げられたなら、それは“奇跡”か“運命”かと言われ、そんな恋に憧れる人ならざるモノたちの羨望の的……希望の星となった。 モモエも『奇跡の恋』や『運命の恋』と言われるものに憧れる一人だ。 恋バナが大好物で、しょっちゅう左近を困らせていた。 「左近ちゃんもお年頃ね。恋する時期ね。お相手現れた?」 こんな風に質問するのも常だった。 だが、左近の返事はいつもモモエの期待を裏切った。 「恋では腹はいっぱいにならないっす。だから、いいっす」
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