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そのたびにモモエはガッカリしながらも目を細め、毎度クスクス笑うのだった。
「要するに、左近ちゃんは花より団子。まだ、お子ちゃまということなのよ」
その笑いは決して左近を小馬鹿にしているわけではない。彼女の瞳にはちゃんと慈愛の色が含まれていて、左近もそれが十分に分かっていた。
「お子ちゃまで結構っす。団子大好きっす」
だからこんな風に軽く受け流して笑っていられるのだ。
それに、こんな風にモモエと言い合いをしていると、人間がよくしている親子喧嘩のように思えて左近はそれはそれで楽しかった。
「ああら、そう言っていられるのも今のうちかも。劇的な出逢いがあるかも」
モモエも左近の気持ちを知っていてワザとこんな風に言い返す。
だが、フフンと鼻を鳴らしながらいつものように何気なく零したモモエの言葉が、近い将来本当になるとは、この時は左近もモモエも露も思っていなかった。
***
「ひぇー、寒いっす」
モモエの言葉を思い出すこともなく、左近は忙しい毎日を送っていた。
「もう! ついこの間、扇風機を片付けたところなのに!」
十月に入った途端、長々と降り続いていた秋雨が上がり朝夕の気温が急激に下がった。
寒さに弱い左近は早くも暖房の心配を始める。
「今週中にコタツとストーブを押し入れから出して……灯油は……まだ早いかなぁ」
トイレ掃除をしながら冬支度の段取りを考えていると、「弟神使!」と華桜の呼ぶ声が聞こえる。
「なんすかぁ?」
左近はトイレ掃除をする手を休めることなく声を上げる。
すると、「栗が食べたい、今すぐ食べたい!」と駄々っ子のような華桜の声が左近の耳に届く。
――また始まった。左近は溜息を一つ零し問う。
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