01) 狐の初恋

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*** 「俺、あの穴ができるまで鎮守の杜を出たことがなかったっす」 磁界は空間を歪め、奇々怪界な世界と通じる穴を開けただけではなく、元々住んでいたモノたちにも多大な影響を与えた。それは人型云々も含めてだ。 左近の場合、稲荷神の神使という身分が彼を鎮守の杜に縛り付けていたが、空間の歪みと共に鎖が切れるようにそれが解かれた。 他所からやって来た人ならざるモノたちが、人間界に参入し始めたのが原因らしい。このことは、古き慣習を良しとする兄神使を大いに戸惑わせた。 その上、穴の出現と共になぜか神社に人が来なくなってしまった。これは由々しき問題、と兄神使は大いに慌てた。 そのうち食うにも困るようになり、兄神使は大いに困惑した。 結局、今までの考えを改めざる得なくなった。 『地位や権力に胡座(あぐら)をかく時代は終わった。弟神使よ、柔軟な頭で発想豊かに生きなければ、明日の(かて)も得られない、そう思え!』 左近はとうの昔にそのことに気付いていた。だが、兄神使に逆わず従って生きてきた。なぜなら、事なかれ主義の左近にはその方が楽に生きられるからだ。
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