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「卵は三個。二個は全卵溶き卵で半熟、一個は黄卵のみ生のまま中央に。ゆえに、新鮮な卵を使え。取り除いた白身は澄ましの具だぞ、よいな、くれぐれも捨てるでないぞ」
華桜は常々、『米一粒に七人の神が宿る。それはどの食材にも言えること、無駄なく使え!』と口が酸っぱくなるほど言っている。
そういうところは嫌いじゃないが、と左近は数少ない華桜の利点に、また頷く。
「それと、揚げが甘いゆえに玉葱は使うな。甘くなりすぎる。白葱を使え。最後に青ネギを散らすのも忘れるな」
アドバイスだけ聞けば老舗割烹の板さんのようだが、当の華桜は料理はからっきしダメで食べるの専門、それもかなりのグルメだ。
だからだろう、左近の料理の腕は上がる一方だった。
今ではリクエスト通り作れるのは当たり前、アレンジだってお手の物だった。さらに言うなら誰よりも華桜の口に合うものが作れた。
だから、華桜は余程のことがない限り外食はしない。華桜を満足させる料理が作れるのは左近だけだからだ。
だが、華桜の口から未だに『美味しい』の言葉は出ない。
その理由を知っているのは白夜だけだ。
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