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「じゃあ、行ってくるっす」
「さっさと行くがいい」
左近は昼食の後片付けを終えると、華桜に追い立てられるようにして店を出る。向かう先は商店街。
結局、『茹で栗もいいがどうせなら……』と華桜が栗づくしの夕飯をリクエストしたのだ。
結果、栗おこわ、栗の和風ポタージュスープ、栗と南瓜のサラダ、栗の治部煮を作ることになった。
当然、マロングラッセと渋皮煮も作るが、二つは仕上がりに時間がかかり今日すぐには食べられない。だからだそうだ。
「どうでもいいけど、本当、どれだけ栗が好きなんだよ!」
左近は独り言ち、でも、栗ばかりじゃ白夜が可哀想だと、彼には旬の秋刀魚をプラスしようと考えながら歩みを進める。
「だったら、まずは“魚三”で、それから“肉屋のゲンさん”だな。最後は“八百桃”で……ちょっと愚痴ってこよう」と早速に魚屋に足を向ける。
商店街は相変わらず活気に溢れていた。
「おっ、らっしゃい! 今日はティッシュ配りの日じゃないんだ」
魚三の大将、三郎が威勢良く声を掛ける。彼は人間だ。
『奥方一人と二人の子を持つ働き盛りの四十七歳』と自己紹介を受けたのは、今から何年前だっただろうと左近は三郎の真っ白い髪を見ながらちょっと考える。
二人の子供達も数年前、各々所帯を持ち独立した。
なのに、左近は未だに高校生のままだ。
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