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少年はもしかしたらと思ったが、まさかねと瞬時にそれを打ち消した。そして、何食わぬ顔で「何でもっすよ」といつものように愛想よく決まり文句を述べた。
「お困りごとなら何でもたちどころに解決っす」
そう説明しながらも、本当のところ少年は詳しく知らなかった。長年勤めているにもかかわらずにだ。
オバサンは少年の答えに「ああ」と大きく頷き、「何でも屋さんのことね?」と勝手に自己解釈すると、「そんなとこっす」と答える少年にフーンと気のない声を返した。だが、次の瞬間、オバサンの瞳がキランと光った。
「ねぇ、ソレで終わりなの?」
ん……? 少年がオバサンの視線を追う。そして、手に持つポケットティッシュを指した。
「これっすか? そうっす」
するとオバサンは満面の笑みを浮かべて、少年の手にあった五個のポケットテッシュを摘み上げた。
「そう、なら私が全部貰ってあげる。仕事が早く終わってよかったわね」
明らかに親切心とは違うその行為に、少年は呆れながらも「どうもっす」と礼を述べた。オバサンは「どういたしまして」と言いながら『もう用はない』とばかりに少年に背を向けた。
「本当、人間って……」
少年はフルフルと頭を振りながら、「でも、あいつじゃなかったし、いいや」と去って行くオバサンの後ろ姿を安堵の息と共に見送り、おもむろにキャップ帽を脱いだ。
――と同時にライトブラウンの艶ややかな前髪がサラリと少年の額に落ちた。少年はそれをクシャッと撫で上げる。
丸出しになった顔は、逆三角形の輪郭といい、少し吊り上がった目といい――稲荷神社に置かれている狐の石像にそっくりだった。それをちょっと少女マンガ風に可愛くした感じだ。
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