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鈴は御年七十七歳。二ヶ月前に軽い心筋梗塞を起こすまで、矍鑠とした様で若々しく働いていた。
元治も鈴も気のいい人間で、何かと左近によくしてくれていた。だから、鈴が入院したと聞いた時、左近は心の底から心配した。
「鈴バアちゃん、無理は絶対ダメっすよ!」
「ほらな、お気に入りの左近がこう言ってんだ、中で休んどけ」
元治は四十七歳のバツイチ。
『元妻に未練ありでね、再婚の意思がないんだよ』と鈴はいつも元治を憐れみの目で見ながら、誰彼なしに『孫が抱きたいのに、本当に親不孝者だよ』と愚痴っていた。
だからだろう、鈴が孫のように年若い左近を可愛がるのは。
「仕方がないね。じゃあ、この子が帰る時、中に入るよ」
渋々といった感じで応えてはいるが、左近には鈴がホッとしているのがよく分かった。ダークグレーの光が鈴を包んでいるのが視えるからだ。
光は人間がいうオーラとは違う。
左近が目にしているのは命の光だ。
魂と同様、光にも色がある。光の色は、命の長さや質によって違いが出る。
大筋は、暗い色になるに従い、病気が深刻だったり、命が尽きる前だったりする。
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