01) 狐の初恋

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鈴は御年(おんとし)七十七歳。二ヶ月前に軽い心筋梗塞を起こすまで、矍鑠(かくしゃく)とした様で若々しく働いていた。 元治も鈴も気のいい人間で、何かと左近によくしてくれていた。だから、鈴が入院したと聞いた時、左近は心の底から心配した。 「鈴バアちゃん、無理は絶対ダメっすよ!」 「ほらな、お気に入りの左近がこう言ってんだ、中で休んどけ」 元治は四十七歳のバツイチ。 『元妻に未練ありでね、再婚の意思がないんだよ』と鈴はいつも元治を憐れみの目で見ながら、誰彼なしに『孫が抱きたいのに、本当に親不孝者だよ』と愚痴っていた。 だからだろう、鈴が孫のように年若い左近を可愛がるのは。 「仕方がないね。じゃあ、この子が帰る時、中に入るよ」 渋々といった感じで応えてはいるが、左近には鈴がホッとしているのがよく分かった。ダークグレーの光が鈴を包んでいるのが視えるからだ。 光は人間がいうオーラとは違う。 左近が目にしているのは命の光だ。 魂と同様、光にも色がある。光の色は、命の長さや質によって違いが出る。 大筋は、暗い色になるに従い、病気が深刻だったり、命が尽きる前だったりする。
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