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因みに、一番美しい光を持つ者は、生まれたばかりの赤ん坊だと言われている。その光は虹色に輝き、目も開けられないほど眩しいのだそうだ。魂も然りだ。
鈴の光はダークなグレー。彼女の病気は完治はおろか命の灯火が消える前だと左近はすぐに察した。
「鈴バアちゃん、なんか欲しいもんないっすか? 快気祝いに何でも言うこと聞くっす」
人間には寿命の残りを知らせてはいけないことになっている。これは神内御法度という神の法律で定められているものの一つだ。
「欲しいものはないけど……左近ちゃん、いつもの秋限定『秋色栗頼り抹茶バージョン』を食べに行きたい。この秋、まだ一度も一緒に行けていないだろう。一緒に行ってくれるかい?」
左近も鈴も甘党で、よく一緒に近所にある甘味処『鐘の屋』に行っていた。
『秋色栗頼り抹茶バージョン』は、鐘の屋の期間限定商品の中で、最もヒットした商品で、毎年この時期にお目見えする逸品だった。
「うん、善は急げっす。明日の午後はどおっすか? いいっすよね、元治さん」
元治の顔がクシャリと歪む。笑っているような泣いているような、そんな顔だ。その横顔を憂いを秘めた鈴の瞳が見つめる。
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