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もしかしたら、と左近は思う。元治は医者から鈴がそう長くないと聞かされているのかもしれない。そして、鈴はそのことに気付いているのかも……と。
左近の胸がギューッと締め付けられる。
――苦しい……。
人間は時に優しい嘘を身に纏う。元治も鈴も、お互いを思えばこその嘘を付いている。
左近も狐だから化かすのは得意だ。でも、と思う。二人のような美しい嘘は纏えない……と。
「おお。いいねぇ、行ってこい。土産は鐘の屋の鯛焼きでいいぞ。ほらアレ、秋限定で栗の入ったのがあったろ?」
元治の空元気な声が陽気に言う。だが、声は嘘を付かない。無理しているのがダダ分かりだった。
「期間限定と言えば、私はさつま芋餡が好きだね」
反対に、息子のお許しが出たからだろうか鈴の声は明るい。
「じゃあ、お土産もいっぱい買うっす。鈴バアちゃん、明日、十四時にお迎えにあがるっす」
鈴が嬉しそうに頷く。それを横目に元治も微妙な笑みを浮かべる。
人間の寿命は生まれ落ちた時にすでに決められている。神だとて、それを操作してはいけない決まりとなっているが……。
二人を見ながら左近は、出来るなら鈴の寿命を伸ばしてあげたい、と思うのだった。
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