プロローグ

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もし、その言葉を少年が聞いたら、少年は「失礼っすよ。正真正銘、神の使いである狐の化身に向かって!」と睨んだだろう。 だが、それが本当なら、『神使がなぜポケットティッシュなど配っているのだ?』と疑問に思うだろう。 しかし、少年の言葉は本当だった。 世知辛いこの世では『働かざるモノ、食うべからず』だからだ。それは稲荷神の神使(しんし)とて 例外ではないということだ。 少年が仕えている月丘(つきおか)稲荷神社は、昔はともかく、今は地元民でさえ祭事のときにしか顔を出さない貧乏稲荷なのだ。 その神社は、駅前――ちょうど今、少年が立っているところ近くにある月丘駅前商店街の中程にポカンとある。 なぜポカンなのか? それはお(やしろ)が、深く広い鎮守(ちんじゅ)(もり)に囲まれ、商店街の並びから言うと、そこだけポカンと穴が空いたように見えるからだ。 話を戻すが、そんな貧乏稲荷の神使が、どうして悟り屋で働くことになったのかだが……。 それは、『稲荷神様のお供えを減らさぬよう、自分の食いぶちは自分で何とかしろ』と兄神使に命令されたからだ。悟り屋は兄神使が命じた勤め先だったということだ。 その悟り屋は、ポカンから百メートル程先、商店街の外れのビルとビルの間にこぢんまりと(たたず)んでいる。 月丘稲荷神社も悟り屋も、月ヶ丘市という人口約五万人足らずの小さな市にあり――驚くなかれ! この市、小さな市にもかかわらず、知る人ぞ知る! 磁界(じかい)で有名な市なのだ。
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