プロローグ

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“磁界”とは『磁気がはたらく空間の状態』を言い、研究者によると、『この市はどこよりも強力な磁気力が作用する空間が存在する市』なのだそうだが……。 いかんせん、その分野に明るくない者から言わせると、ナンノコッチャだ。 ただ、明るくても明るくなくても、強力な磁場(じば)は、有無も言わさず様々なモノに影響を与える。それは月ヶ丘市も例外ではなかった。 この市の場合、それは空間に(ゆが)みを生じさせた。そして、歪みは奇々怪々な世界に通じる穴を、月丘稲荷神社がある鎮守の杜奥深くに空けた。 その穴を(くぐ)り、この地に降り立った人ならざるモノは、人間と共に生きることを許された。 ただ、人型(ひとがた)になれるモノはその中の三パーセントだけで、残りは人型以外の生き物か無機質の物になるらしい。だが、どんなモノが、誰に許され、人型になれるのかは未だ不明だ。 そして、それらのことを認知しているのは人間以外のモノがほとんどで、人間は人型の表面だけで、どのモノも人間と信じて疑わなかった。 人ならざるモノから言えば、人間の見る目はかなり鈍感で、自分勝手に片寄っているらしい。 要するに、都合のいいように見、解釈し、納得する、ということだ。 『だから、真実を見逃して大切なものを失う馬鹿者が多いのだ』と“悟り屋”の店主、卯月華桜(うづきかおう)辛辣(しんらつ)に言う。 その華桜も人ならざるモノだ。彼女は陰陽師と桜の精の血を継ぐ、名家、卯月一族直系最後の末裔(まつえい)だった。
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