プロローグ

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彼女、外観はザ・ジャパネスク的な楚々(そそ)とした和風美人だが、容姿に相反して中身は粗暴で毒舌な女王様だ。だが、哀しいかな本人はそう思っていない。 そんなかなり残念で厄介な彼女の一番の被害者は誰あろう……少年だ。 そして、華桜の(かたわら)で、常時、彼女を優しく見守りフォローしているのが、華桜の夫、白く美しい毛並みを持つ猫の白夜(びゃくや)だ。 白夜の真の姿は月の精霊で、月夜にだけ殿方(とのがた)の姿になる。 それはもう見目(みめ)麗しく、美人と(ほま)れ高い華桜でさえ足元にも及ばないほど美麗な姿をしていた。 負けず嫌いの華桜はそれが無性に悔しいらしいが、殿方となった白夜に会えるのは嬉しいらしい。だから、雨の夜は物凄く機嫌が悪くなる。 白夜もまた、『人の姿で華桜を抱き締めるのが至福の喜びです』と(のたま)い、月夜を楽しみにしていた。 *** 「今宵は美しい月夜だこと」 華桜が夜空を見上げうっとりとした声で呟くと、人の姿で彼女の肩を抱いていた白夜が 「月と桜が出会いし夜、悟りが開かれ永遠(とわ)が生まれる」と伝説めいた言葉を発した。 「悟りは己のみが自ら開くことができるのに、近頃の者は――ほんに手がかかる」 華桜の溜息に白夜は「眉間に皺を寄せていると可愛い顔が台無しですよ」と彼女の額に唇を寄せた。 途端に華桜の機嫌が良くなる。しかし、それは一瞬だった。 「――あやつ、我ら二つの魂が悟り屋を開かせたのだと教えたのに、今以てさっぱり分かっていないようだ」 「まだ子どもですよ。時が来たら分かりますよ」 「我のコンセプトである『人ならざるモノも人間も、生ある限り共に悩めし者。悩めし日々を過去に置き、悟りを開き、永遠(とわ)手中(しゅちゅう)に……』も、未だ理解できないおバカな奴だ。そんな日は永遠に来ない」 「なら、なぜあの子に悟り屋の仕事を手伝わしているんです?」 ふふふと白夜が意味深に笑うと、華桜は「白夜はほんに意地悪だ」と頬を膨らませた。。 「でも、そんな私も好きなのでしょう?」 白夜の瞳が蠱惑(こわく)の光を放ち始めると、華桜は「永遠に我は其方(そなた)に勝てない」と悔しさに奥歯を噛んだ。
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