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   「何、怒ってんの?」 「別に。お、怒ってなんかないよ」 「てかさ、たしか今日一緒に帰るって言ってなかったっけ。なんで先に帰っちゃうわけ?」  そうだ。  怒るとしたら、僕じゃなくアサヒのほうだ。  今日は一緒に帰る約束をしてた。一緒に帰って、アサヒの家で、たんまりと出ている春休みの課題を早々と片付けちゃおうぜって約束も、今朝、確かにした。明日は終業式だし、四月になったら僕らはもう三年で、あっという間に忙しくなるに決まってるから、三月中にどこかに遊びに行こうか、なんて話もしていた。  だけど今日、僕は彼を置いて学校から先に帰って、着替えて、今こうして彼の住むマンションのエントランスで、気まずいような、具合の悪い思いを抱えたままうつむいて大理石の床を蹴っていて。  ……そこへアサヒが帰ってきて、片手を上げて「よっ」と言いながら、僕の足を踏みつけた。 「今のでおあいこにしてやる」  そう言って僕の前を通り過ぎ、エレベーターへ向かって歩いていく。このスニーカー、結構気に入ってるんだけどな。けどまぁ、自業自得だ。 エレベーターはまるで僕らを待っていたようにそこにいて、彼がボタンを押すと、すーっと扉が開いた。いつものように「8」のボタンを押した後、扉の上にある階数を表示するバーを眺めているアサヒに向かって、言った。
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