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「……気づかなかった。桜」
「どうせ下向いて歩いてたんだろ? 俺のことブツブツ言いながら」
くくくっとアサヒが笑うと、耳たぶの下にある鎖骨が少しだけ動いた。その通り、正解だよ。満点。そういうところはお利口だよな。アサヒは。
「『いくら頭が良くたって、言葉にしてくれなきゃわかんないし伝わらないことだってあるんだよ』って、前に言ってたね。トモ」
言った。覚えてる。
確か、学園祭の出し物で、アサヒがクラスの女子と組んで何かやらされるハメになったとかでギャーギャー言ってるのを見て、その時も僕がやきもちを焼いたんだ。こういうところ、本当に学習しないな。僕。
「好きだよ、トモ」
指先で僕の髪をとかすようにしながらアサヒが言った。
「お前も言ってよ」
顔の角度を少し変えると、アサヒの首の付け根の小さなほくろがあるところに唇が当たる。そこへ唇をつけたまま、
「アサヒが、好きだよ」
うん、とアサヒは答えて、今度は掌で髪を撫でながら、
「三年になったら、今度こそ同じクラスになれるといいのにな。そしたら受験勉強に付き合ってよ」
「部活は? いつまでやるの」
「七月の期末テスト前で引退。行ったり行かなかったりの幽霊部員だけど、一応はね」
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