1.

5/6
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
    来年の今頃は、受験も終わって大学に行く準備をしている。  彼は地元で、僕は県外の大学へ行く。それはもう、決まっている。ただ、その頃僕らがどうなっているか、どうしていきたいのか、それはまだ話していない。 「明日、終業式の帰りに公園で花見しようよ」  僕がそう言うと、「あぁ。いいな、それ」と頭の上で声がした。  時々思うんだ。  僕らはずっとこのまま、大人になんかならないで、ずっとこのままでいられたらいいのにって。そんな僕にとって『受験勉強に付き合ってよ』というアサヒの言葉は、残りあと一年の限られた時間を、少しでも長く一緒に過ごそうって言っているように聞こえた。それが嬉しいような、だけど少しずつ終わりに近づいているのがわかって、……だから正直に言うとすごく寂しい。そんなふうに、『寂しい』なんて思ってるのは僕だけなのかな。  ……そうやって、また一人で思い込んでる。 「十七歳は一度だけ――」  頭の上から、ヘンな調子の鼻歌が聴こえてくる。 「何、それ?」 「知らない。サクが歌ってた。むかーしにそんな映画があったんだって。あいつ、そういうのも好きらしくて」 「十八歳だって、二十歳だって一回しかないじゃん」 「そうだよな」  アハハとアサヒが笑い、肩が揺れる。  いつか、こんなふうにバカみたいなことを言って笑い合って、お互いの身体を寄せ合って、時々唇に触れて。そんなふうに過ごしたことを、アサヒを、過去のものにして思い出すことがあるんだろうか。僕はその時、…………。  けど、僕らはずっとこのままで。大人になんか、ならなくていい。あと少しだけ、そう思っていたい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!