“ま”の怪

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仕事終わり。なんとか電車に乗れた俺は大きく息を吐いた。これを逃せば次は1時間後だ。 最寄り駅の改札に定期をかざす。鳴り響くブザーに俺は思い出した。   仕方ない。 「あの」   窓口で事情を話す所で、 「一度外に出られますか?」 それは俺のもとにやって来た。   どうとも取れる曖昧な言葉。 改札をすり抜けて電車に乗る。定期はあるとはいえ、ささやかなスリルを味わいたいという陳腐な好奇心に、俺はつい試してしまった。 少々お待ちください。と定期を受け取った駅員が、次の瞬間、地の底を揺らすような声音で「先程の言葉はどういうことですか?」と口にした。 背中の毛穴から、無数の冷や汗が瞬時に吹き出すのを、俺は大袈裟でなく感じた。 「入場時間が半日以上経過しています。今までずっとホームに?なぜ定期をあちらでかざさなかったのですか。それに・・・・」   ひたすらに長く感じた一方的なやりとりの後、「今回は警察には届けませんが、次はありません」とついに解放された。 「すみません」   混乱し、虚脱した身体から謝罪をひねり出し、どうにか立ち去ろうとする俺に、 「入退時間は管理されているので、お気をつけて」と駅員が冷たく吐き捨てた。
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