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「お前はもう、生ぬるいことじゃ満足しなくなる。俺がいなくなったら泣きながらさまようくらいに変えてやる。カラダも、」
男は人差し指を鋭く青年の胸に突き付ける。
「心も」
青年はくぅっと小さなうめき声を洩らし、その場にくずおれると、泣き出す寸前みたいに顔を歪ませた。
男はそのカオをしばらく食い入るように、それから愛おしげに見つめると小さく笑った。
「だがその代り、俺はお前のことでは絶対に手抜きをしない。浮気もしない。お前だけを見ると約束できる」
ハッと目を瞠った青年は、すがるように、探るように男をじっと見上げる。
「受け入れるなら、今夜八時、俺の部屋に来い」
そう言って、男は胸ポケットから名刺のようなものを取り出し、くわえ煙草で素早く何かを書きつけると、座り込んだままの青年を立ち上がらせ、彼の胸ポケットにスッとそれを滑り込ませた。
「……い、行かなかったら……?」
「二度とお前には声をかけない。見合いでもなんでも好きにしろ」
青年の目が傷ついたように揺れる。
「そ、んな言い方」
「だが俺はあいにく、負け戦はしない主義でな」
男はニヤリと笑い、また私のほっぺたで乱暴に煙草をひねり潰すと青年の前に立ち、潤んだ瞳を真面目な顔で見つめた。
「お前も俺を見てた」
青年がハッと男を見返すと、男は素早く青年の目許にキスをした。
「違うとは言わせない」
青年の髪をさらりと撫で、最後にじっと見つめると、潔く背を向けてスモーキングルームを出て行った。
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