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 青年は茫然とその背を見送り、それから震える手の甲をキスされた目許に押し付けて、じわりと俯いた。  カナカナカナ……というヒグラシの声だけが聞こえる。 「…………クソッ」  小さく吐き棄て、青年は己の身を強く抱いた。  それからおずおずと男が残して行ったカードを取り出し、小さく爪を噛みながらそれをじっと見つめている。  と、そこに賑やかな話し声が聞こえてきて、入口の扉が開いた。 「お、もう上がりか」  入って来た二人の男のうち、ひょうたんみたいな顔をした男が青年に声をかけた。 「あっ、……はい。もうそろそろ」  青年は慌ててカードを持った手を下ろす。  二人はそれぞれの煙草に火を点けて、興味深げに青年を見た。 「なに、お前、顔真っ赤だぜ」  キツネ顔の男が青年の顔を覗き込む。 「えっ」  青年が慌てて手の甲で頬を隠すと、ひょうたんも気遣わしげに覗き込んだ。 「冷房のあたり過ぎで風邪でも引いたんじゃないのか」 「いえ、あの、大丈夫です」 「そうかぁ? あ、今日これから飲み行くんだけど、お前も来る?」 「え…、今日……、ですか」 「おう、なんか予定あんの」  青年は手の中のカードをぎゅっと握り締め、しばらく俯いていたが、やがて顔をあげると、はっきりと告げた。
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