消えた栄光

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 軽く門扉を押すと,それは金切声を上げて開いてゆく。ウィングは身震いした。寒さのせいなのか,屋敷から出る不気味な気配のせいなのか。険しい登山の後はお化け屋敷で肝試しか。夏休みだったら楽しい思い出になったことだろう。  すぐ後ろをハミルトンが何も言わずについてくる。中に立ち入ったと言っていたが,何も語ろうとしないのはなぜなのだろうか・・・ 「あのー,さっきからずっと黙ってついて来られると・・・何ていうかそのー・・・」ウィングが振り返りつつ話しかける。 「一人で行きたいってことですか?」ハミルトンが冷たく聞き返した。 「いや!それはやめ・・・じゃなくて,いや,なんでもない」  一人で行けだなんてとんでもない。絶対にごめんだ。クビにすると脅されたとしたって,一人でなんて絶対行くものか。  門から屋敷へは一本の舗装された道が続いていて,その両側には芝生の庭が続いている様に見えた。いくら広い土地を持っていようが,こんな車でたどり着けないような辺鄙な場所だったらちっとも羨ましくない。むしろこんなところに住んでいる人間なんて外の世界と交流を持たない変人に違いない。  屋敷に近づくに連れて,その大きさが想像以上であることに気付かされる。まるで城のようだ。  ただ,全く生気が無く,手入れもされていないようだった。外壁にはツタが絡みつき,屋根のかわらが玄関前の足元に転がっている。窓ガラスはひどくくすんでいて,中の様子が分からない。ただの廃墟同然だった。別の意味で危険かもしれない。床が抜け落ちたり,天井が崩れてきたり。  ウィングとハミルトンは玄関のドアの前で立ち止まった。相変わらずハミルトンは何も言わずに一歩後ろに立っている。 「なんで黙ってるんだ?何か喋れよ!」怖いから,と付け足しそうになったが,ウィングは慌ててその言葉を押し留めた。 「別にいつも通りですよ。あなたが黙っているだけではありませんか?」相変わらず冷たい返事が返ってくる。  的確な指摘にウィングは返す言葉が無かった。確かにいつもは自分が一方的にしゃべっているような気がしないでもない。でも怖いもんは怖いんだから,少しは気を遣ってほしい。 「・・・ノックするべき?」  ウィングの問いかけを無視して,ハミルトンが屋敷の扉を開ける。 「どうぞ,刑事さん」  彼女が促した。
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