生命と無生命

6/7
前へ
/11ページ
次へ
 前置きがずいぶんと長くなったが,ここからがようやく本題である。  考えても埒が明かないので,私は人工的に生命をつくってみることにした。 これは,人工授精やクローンの生成というものではなく,完全に,全て最初から人工物として作る,すなわち「試験管の中で作られた生命」の誕生を目指すということである。  人工生命の前例は,実は存在する。すでに試験管の中でウィルスが作成され活動(と言ってよいのかわからないが・・・)出来ることが知られている。  しかし,私が目指すのは生命を持つ生物の生成である。 知りたいのは,生物と全く同じ分子構造の物質を作った時,そこに生命は存在するのかということだ。  以下にその経過を記しておく。  初めは,単細胞生物のような単純なものから始めた。 原核生物では,DNAを完全に再現し,全く同じ構造の細胞膜を作った。 結果は,生物とはならなかった。  どこかで少し間違えているのかもしれないと思い,何度も挑戦したが上手くいかなかった。 私の研究は早速頓挫した。  何か変化を期待して顕微鏡を覗く私の横を,どこから入ったのか,小さな虫が飛んでいた。 こんな小さな虫よりもさらに小さい生物さえ,私は作ることが出来ないのかという憤りが生じ,その怒りを虫にぶつけ,叩き殺した。  次に顕微鏡を覗きこんだとき,私は奇妙なことに気が付いた。  動いていた! 無数のサンプルのうち,5分の1程度だが,確かに動いていたのだ。  実験はひとまず成功だ!人工生命,人工生物が誕生した!!  しかし,手放しで喜ぶわけには行かなかった。 なぜ,突然生命が宿ったのか。そもそも,その生命というのは何なのか。 私の怒りと関係するのだろうか。それとも,虫を叩いたときの衝撃が伝わったのだろうか。  何度顕微鏡を覗きこみ続けても,それ以上の変化はなかった。  その日は,愛猫のロザリンドと祝杯を挙げた。 さすがに猫に酒を飲ませたりはしなかったが。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加