とあるタクシー運転手の話

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老人の顔は、 肉が崩れ 皮膚はドス黒く干乾び 殆ど骸骨と化していた。 その眼窩に宿った暗闇と目が合ってしまった男は、救急車を呼ぶことを忘れ、 逃げ出すこともできずに、ただ震えて時が経つに任せた。 しばらくして、僅かに落ち着きを取り戻した男の頭に疑念が浮かんだ。 曇っているとはいえまだ昼間である。 もし、あんなモノが道路に転がっていれば気が付かないはずはなかった。 男はそっと、サイドミラー越しに老人が倒れている後ろを窺った。 そして、驚きのあまり息が止まった。 信じられず車から降り、恐々としながら目を凝らし確かめる。 先程までいたはずの真っ黒な顔の老人の姿は、忽然と消えていた。 後日わかったことだが、 男が轢いたと思った老人が倒れていた道路の横に建つ家で 孤独死した老人の遺体が発見された。 死因は病死であったが死後数か月が経っており、遺体は真っ黒に干乾びていたという。
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