「ジグとテテ」

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「ジグとテテ」

「ん…あー…」 男は機体が少し強めに揺れて、目が覚めた。 どうやら少し居眠りしていたらしい。 「いかん、油断した」 頭を激しく振り、頬を自分で張って眠気を飛ばす。 ここの所激務続きで、ろくに寝ていなかった。 そこへきての簡単な任務に単調な道すがら、 心地よい振動が加わって思わず眠ってしまったのだ。 男はレイダー(侵略者・強奪者)と呼ばれる 大きな人型機械に乗っていた。 この人型機械の正式名称は「全天候型特殊重機/陽炎(かげろう)」 全高10メートル程の二足歩行ロボットだ。 df4d83ac-0304-4e2b-a402-ba4382ecf5e6 全体的に角ばったデザインでどっしりとしていて、 頭部に当たる場所がキャノピーになっており、 全身ほぼ濃緑色のカラーリング。 胸の部分にはコックピットハッチを示す赤と、 識別用の黄色が配置されていて、 機体の何か所かには、「08」とマーキングがされている。 惑星開拓用に開発された物でかなり旧式だが、 改修を重ねに重ねて何とか使っている。 コックピットも結構広めで、他の機種に比べると居住性がいい。 簡単な歩行ならコンピュータ任せでも問題無いとはいえ、 油断が過ぎた様だ。 これが普通の車なら、事故待ったなしだった所である。 事故以前に、[何が起こるか解らない]がこの惑星ノアの合言葉で、 実際に何度もそういう事態に遭遇し、 死にかけたことも一度や二度ではない。 どれ位眠ってしまっていたのか解らなかったので、 念の為にぐるりとモニタを注視し、周りに何か問題は無いかと、 気を引き締めてカメラを操作した。 この辺りは街と街の間に広がる荒涼地帯で、人工物は何もない。 周りは一面原野で空気も乾燥している。 砂漠やジャングルよりはマシだが、 お世辞にも過ごしやすい環境とは言えない。 そんな場所なので特に問題は無いだろうが、念には念をだ。 ところが… (ん?) そこで意外な物が目に飛び込んできた。 (これは…タイヤ痕?こんな所にか?) 少し柔らかい地面を踏んだ際に出来たと思われる、タイヤの痕があった。 せいぜい数メートルしか付いていないが、 やけにはっきりと残っているところを見るに、まだ間が無い様だ。 男はコックピット内で何やら操作をして、モニターに情報を映し出すと、 ざっと目を通した。こんな所を車が通る予定があったかどうかの確認だ。 (…やっぱりそんな予定は無いか…他所の街かもしれんが、  それにしたってこんな何もない所に来るのは不自然だな) この辺りは一応開拓済の安全地帯とされているが、 何十年もかけて調査した訳ではない。 まだどんな危険が潜んでいるかも分からないので、 もしもの時の為に、どんな些細な用事でも 申請を通して記録に残しておくのだ。 とはいえそれは開拓従事者の間での話であり、 民間人や旅行者はその限りではない。 次にズームをきかせ、拡大して見てみる。 (この痕は…細い…ジープじゃない、普通乗用車か?  となると…ちっ、厄介だな) 男は思わず舌打ちをした。 (やれやれ、さてはまた勝手な事をした旅行者か?) 時々、惑星エデンから来た観光客がガイドや看板の警告を無視して 危険な場所で危ない目に遭い、その尻ぬぐいの仕事が 回ってくることがあるが、これもその類だろうか? 奴らは自分のした事は完全に棚上げして、 やれ救助が遅いだの、お前らの監視が甘いから酷い目に遭ったんだとか、 正気とは思えないクレームを付けてくる。 そういう輩は逆に罰を受けるのがこっちの流儀だが、 その後エデンに戻ってから、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるらしい。 死者なんて出てよう物なら、 マスコミとグルになってバッシングを初めて、 税金ドロボーとか言い出す始末。 男は色々あった過去の例を思い出し、少し腹が立ってきた。 とは言えこのタイヤ痕を見なかった事にして無視は出来ない。 ざっと探して見つかれば街へ追い返し、見つからなければ 関係各所に通達しないといけない。 こんな場所でエンストやガス欠など起こせば、それは死と同義である。 気が重いが仕方ない、任務は一旦脇に置いて、ここで寄り道だ。 男はそう思いながら、タイヤ痕の形状から進行方向を割り出し、 その方向へと進路を取った。 ---------------------------------------------------------------------
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