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秋山は、以前仕事の用事で出入りしていた病院で、偶然出会った医者だ。
相続問題に悩んでいた彼の相談に乗った後、「今度は私が力になりますから」と名刺を手渡された時には、今日のこの日を予感していた。
予感と共に焼き付いたからだろうか。普段は意図的に取捨選択される記憶の中で、彼の記憶だけは型に収まらないまま残っている。
「忙しくて、整えている暇がないんです」と笑いながら、目にかかるほどの髪を、がさがさと指で梳いていた様子や、いつ会っても同じような薄青のシャツとストライプのネクタイを身につけていたことなど。不思議なことに、彼に関する記憶は、断片的な映像としてとりとめなく浮かんでくる。
―――――秋山です。お久しぶりです、深巳さん。どうしたんですか?
「お久しぶりです。その後いかがですか」
―――――おかげさまで、何とかなりました。…あっっ! 俺、まだ深巳さんにきちんとお礼をしてませんよね!
「先生。病院内で『俺』と言ってしまう癖、直したいんでしょう」
―――――あぁーっ…ありがとうございます。でも、ご無沙汰していて、本当に申し訳ありません。何かお礼をしたいんですが、会えませんか? えーっと、今日の夜がちょうど空いてるので、もし宜しければ…
「ええ。是非」
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