座敷童

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―――この家には、座敷童がおるんよ 線香の香りが鼻先を掠め、他界した祖母の言葉が頭の中で煙となって立ち昇った 盆に母の実家である祖母の家に遊びに行った時だった。 孫を喜ばせようとしたのだろう。 内緒よと言って、皺の寄った微笑を浮かべ、 座敷童の見つけ方なる方法を祖母が教えてくれたのだ。 人気のなくなった大部屋を襖で三つに仕切り 部屋を囲う障子や襖も全て閉めきった後、濡れ縁から勢いよく、襖を開ける。 障子を全て開け放ち、反対側の襖も廊下から自分の存在を知らせるように勢いよく開ける。 仕切りの襖も同様に、最後の一面を残して開ける。 床の間を背に、音を立てないように気を付け、ゆっくりと残った襖を僅かに開ける。 隙間から向こう側を覗くと、そこに座敷童が現れる。 ということだった。 私は、その通りに行った。 空は厚い雲に覆われ、日射しの届かない座敷は、薄闇に染まっていた。 闇を透かそうと目を凝らす。 すると、部屋の中程に黒い塊が蠢いていた。 ―――うわぁっ!? 座敷童と聞いておかっぱ頭の日本人形のような姿を暗闇に思い描いていたために、 目の前に現れた異形の姿に思わず叫び声が漏れだした。 黒い塊は子供どころか人の形ですらなく 四本の足で腹を地面に擦るように這いずり 異様に大きな目玉が闇の中で僅かな光量を照り返し、じっとりと鈍く光っていた。 意図せぬ叫びに、異形の塊の目玉が此方を睨んだ。 瞬間。 開け放たれていた襖や障子が一斉に音もなく閉じた。 淡々しい陽光は障子に阻まれ、薄まっている。 ずぅっ ずぅっ  僅かに開いた眼前の襖の向こう。 座敷童が這いずり、近づいてくるのがわかった。 逃げ出そうにも芯が抜かれたように、体には力が入らなかった。 微かに光る襖の縁が徐に横へ動く。 ずぅっ ずぅっ  畳を這いずる音が、触れんばかりに震える足の横を通る。 ずぅっ ずぅっ ・・・・・ 湿り気を帯びた、這いずる音は遠のいていき、辺りには静けさが満ちた。 茫然とする意識の中 座敷童が消えた闇から漂ってきた線香を思わせる香りが鼻先を掠めた。
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