時計台の影

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 影が、子供の足元にわだかまっている。先程より濃く感じるのは気のせいであろうか。黒々としたその色を際立たせるように、落ちかけた陽光が、正面からじんわりと土を焼く。赤と黒のコントラストにくらりとし、はた、と気付いた。  夕暮れ時である。そこここに立つ木々やベンチの足元にも、長く影が伸びていた。その影の方向と。  反対になってやいまいか。この時計台の影は。  そも影とは、陽の出ている反対側にできるものである。影の中にいて、斜陽をまともに浴びるなど、あってはならないことなのではなかろうか。  影が、濃くなっていく。じわじわと、墨を落とした時のように。粘度の増した黒が、じいわりと這い寄ってくる。  唾を飲みこむ。心臓が、急激に鼓動を早めている。息が上がった。喉の奥は熱く、掌は冷たかった。  ここは異常だ。早く、ここから抜け出して――。  踏み出した足を、するりと掴まれた。たたらを踏む足元に、蹲った影、ひとつ。  ずっと、ひとり。  子供はすうと顔を上げ――歯のない口で――にいやりと、笑った。  きょうから、ふたり。      
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