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その異界人、マコトは案外律儀な青年っぽい。
助けた事にしきりに礼を言っているし、受ける親切に妙に恐縮する。
見た目は愛らしいが、案外芯がしっかりしていそうだ。
俺はこの世界の事を話した。そして、マコトの世界とかけ離れた環境なのだと知った。
まず、人間しかいないというのに驚いた。衝撃の強さはマコトの方が大きそうだが。
それでも皆人型を取って生活しているのを聞くと、幾分安心したようだった。
何より驚くべきは同性同士の結婚も、出産もないということだ。
これは少し残念だ。マコトの匂いは理想的だから、もしも同意してくれるなら一度試したいと思っていたのだ。
竜人族は匂いが大事だ。合わないと欲情しない。本当に見事に興奮しないのだ。
えり好みが出来る状況ではないと分かっている。だが勃起もしないのだから仕方がない。
それに比べてマコトの匂いはなんて誘惑的なのだろう。
タネヤドシの毒が抜けて、体も綺麗にしたのに近づけば香る。
理性をしっかり持っておこう、そう決めた。
それに、どうしても無理矢理は嫌なのだ。
竜人族を受け入れるのも困難なのに、承知で受け入れてくれる相手は愛したい。
たとえ一時でも体を繋げるのだし、もしかしたら子が生まれるかもしれない。そうしたら、産んでくれた相手を生涯掛けて愛そうと決めている。
無理に犯した相手とは、そんな関係にはなれないだろう。
彼は今、食べ終わった食器を洗っている。家庭的な姿は見ていて好感が持てる。
家事能力があるかと言われると「困らない程度」というしかない俺とは違い、実に手慣れている。同い年っぽいのに、もう何年もやっているようだ。
細く柔らかな背中が楽しげにしているのを見て、俺はほんの少し夢を見る。
それは派手ではない、小さく慎ましやかな生活。
自分がいて、妻がいて、子がいて。距離の近い家で寄り合って暮らして、人のぬくもりを感じて生きていく。そんな、穏やかな夢だった。
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