3300人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
「ユーリスさん、あの子の登録が終わったら手放すのかい?」
マスターが「それは惜しい」という調子で俺に聞いてくる。
この点について、俺はわりと悩んでいる。
本心は惜しい。
料理が出来て俺の苦手な家事全般が出来そうな彼は旅に重宝する。
体力のなさが少し心配だが、クエストに連れて行くわけじゃない。
手前の町なりで宿に残して行くことだってできる。
だが善人の俺は、それを俺が判断すべきでは無いと言っている。
彼のステータスやスキルによっては、高収入の職に就くことも可能だ。
やりたい事もあるかもしれないし、今は無くても見つかるかもしれない。
俺の強引な誘いで彼の選択を狭めるべきではない。
結局俺は曖昧にマスターに笑いかけた。
「彼が俺の料理番をしてくれると言ってくれれば、俺は拒まないが。だが、彼には彼の思いや未来があるからな」
「ユーリスさんは少しいい人過ぎるね」
ふっと息を吐いて、マスターはそんな事を言った。
そうしていると不意に、いい匂いが漂ってきた。香ばしい匂いに、もう一つは肉の匂いか。
思わず腹の虫が鳴りそうな、食欲をそそる匂いだ。
「美味しそうですね」
「あぁ、本当に」
キッチンを覗くと、マコトはとても忙しそうに、そしてテキパキと働いている。
最初のコメントを投稿しよう!