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「志穂!」
「志穂ちゃん!」
圭人と宮下のふたりが駆け寄った。
けれど志穂はどちらの手も取ることはなかった。
ストッキングは無様に破れ、膝からは血が滲み出ていたが、志穂は、「大丈夫」となんとか笑顔を作った。
「ごめん、僕のせいだ」
圭人は泣きそうな顔で志穂を見つめる。
「ううん、そうじゃないよ。圭人はなにも気にすることないから」
「手あてしたほうがいいな。傷口をちゃんと洗わないと」
「宮下さん、すみませんが、わたしと圭人を駅前まで送っていただけますか。たいしたケガじゃないので、向こうで手あてします」
宮下は傷の程度を確認し、「わかった」とうなずいた。
圭人も観念したようで、反論することはなかった。
それから三人で駐車場に向かい、志穂と圭人はリアシートに座る。
圭人は責任を感じてずっと暗い顔をしており、言葉数も少なかった。
「たかが、かすり傷ぐらいで。圭人が落ち込むことないんだって」
志穂はハンカチで膝を押さえながら言った。
「でも痕が残るかもしれない」
「残らないよ。小さい頃なんて、これくらいのケガはしょっちゅうだったよ。圭人だってそうでしょう?」
「……うん。でも志穂は女の子だし」
「大袈裟なんだよ、圭人は」
血は止まったようだった。志穂は「平気だから」と、膝にあてていたハンカチをたたみ直してポケットにしまった。
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