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「わかってるよ、困らせてるよね。でも俺も男だし、気に入った女の子をどうにかして振り向かせたいって思うじゃん。それとも、やっぱりそういう相手がいるの?」
「好きな人はいます」
ストレートに聞かれ、志穂は一瞬迷ったが、はっきりと答えた。
気のある素振りはしていないつもりだけれど、期待を持たせてもいけないと思った。
太一の心がほかの女性にあろうと、この思いは変わることはない。彼のことを思えば思うほど、この胸は苦しくなる。
それでもあきらめることはできず、今も太一を追い求めてしまうのだ。
「その人とつき合ってるの?」
「それは……」
「つき合っていないならチャンスはあるかな?」
「ごめんなさい。今はその人のことしか考えられなくて。たぶんこの先も宮下さんのことは……」
志穂はそこまで言って、うつむいた。
さすがにこれ以上は面と向かって言いにくい。
「あー、ごめん。それ以上は言わなくてもいいから」
宮下も苦笑しながら志穂を気遣った。
それに全部聞かなくても察しがつく。というより、今ここで彼女の口から聞きたくなかった。仕事中にとっさに告白してしまったことを後悔すらしていた。
志穂もそれ以上なにも言わなかった。宮下が予想外にショックを受けているのを見て、言いすぎたのかもしれないと反省する。
けれど宮下は弱さを見せることなく、「行こうか」とやさしく言うと、飲み終わったカップをゴミ箱に投げ入れた。
志穂は、「はい」とうなずいて、残りのアイスココアを飲み干した。
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