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「僕のことは放っておけよ。志穂はあの男に送ってもらえばいいだろう」
「わたしも一緒に行く」
「同情してるの? 同情されるほど僕は情けない男なの?」
「違うよ」
「だったら送ってもらいなよ」
「やだ、圭人をひとりにさせたくない」
志穂は圭人のシャツの裾を掴んだ。圭人は足を止めて、振り向いた。
「なんで急に僕にかまうの? さんざん僕を無視して拒んできたくせに」
「それはそうなんだけど……」
圭人のさみしげな瞳に見下ろされ、志穂はどうにもやりきれない気持ちになった。
彼の思いに応えることは到底できない。でも放っておくことも無理だ。
「あの男が待ってるよ、早く行けば?」
圭人が再び前を向いて歩き出した。
「圭人、お願いだから──」
志穂がすがるように圭人に手を伸ばす。
すると振り向きざまに圭人が叫んだ。
「行けって言ってるんだよ! これ以上、僕に恥をかかせるなよ!」
志穂の手が振り払われ、その衝撃で身体がぐらついた。
「あっ!」
タイトスカートに五センチのパンプスという格好の志穂はそのせいでバランスを保てず、よろけそうになる。
圭人がそれに気づき、手を差し伸べようとしたが間に合わず、志穂の身体が地面に倒れ込んだ。
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